●グリーフワーク
人は死別などによって愛する人を失うと、大きな悲しみである「悲嘆(GRIEF)」を感じ、長期に渡って特別な精神の状態の変化を経ていきます。
遺族が体験し、乗り越えなければいけないこの悲嘆のプロセスを、「グリーフワーク」と言います。
グリーフワークには以下のプロセスがあります。
1、ショック期
ショックを受けて混乱し、実感がわかず涙も出ない、茫然として、感覚が麻痺したような感覚になる段階です。
一見冷静に受け止めているように見えますが、現実としての認識ができない状態です。時には、パニック状態になることもあります。
2、喪失期
自分を責め、死を認められず、どうしようもない思いを突発的に周囲にぶつけてしまう段階です。かえって明るく振る舞うケースもあります。
3、閉じこもり期
絶望し、人とかかわれなくなり、無気力になったり自暴自棄になったりする段階です。
4、再生期
大切な人の死を認め、受け入れていく段階です。新しい生き方を探し、元気になっていく状態です。
●グリーフケアの考え方
「グリーフケア」の基本的な考え方は、悲嘆の表現として現れる様々な感情や行動などを、正常なものとして、共 に受けとめることです。
つい、我々はそれらを良くないことだと説得したり、悲しまないように励ましたりしてしまいがちです。
ですが、そうしないように注意 することが必要です。悲嘆を取り除いたり、解決したりすることはできません。
日本の社会環境は、悲しみを充分に表現することを良しとしていません。
特に、大人の男性には、悲しみを見せないことが望まれています。
周囲の人間も、お寺さんも、悲しまないように慰めたり励ましたりしますが、悲しみを表現するようにはサポートしません。
不用意な勇気付けは、病的なプロセスに陥らせることがあります。悲しんでいる遺族を前にすると、自分がその悲しみを分かち合うつらさから逃れたいと思うめに、つい、励ましの言葉をかけてしまいます。
頭で合理的に考えて、感情を抑えようとしても無理です。感情を抑えることは逆効果になります。悲嘆の様々な感情を正常なものとして認め、それを表現し、共に受けとめることが必要です。
共に受けとめることの基本は、ただ遺族の感情や行動を認めながら話を聞いてあげることです。
側にいるだけで、肩に手を置くなどのボディタッチだけでも、不安やショックを分かち合う姿勢を見せることで、それを和らげることができます。
「お気持ちは良く分かります」と言えば、「分かるはずないだろう」と反発されます。
遺族の悲嘆を完全に共有したり、理解することはできません。 「さぞかしつらいでしょうね」という言葉が適当です。悲嘆を認めて、受けとめることが必要です。
悲嘆は数年続くことがありますから、「いつまでも嘆いていてはダメだ」と叱咤することは好ましくありません。
遺族が充分に悲嘆しきっていない段階であるのに、新たなことに気を向けさせることも逆効果です。
本人が故人にこだわっている場合、無理に忘れさせたり、故人に触れないようにするよりも、故人の思い出などで慰めることの方が効果的です。
死別の事実を認め、「○○さんが亡くなって残念です」と率直に言うことも良いでしょう。
いくら頭ではおかしいと理解していても、他人に怒りを向けたり、自責の念を感じてしまいます。
これを一方的におかしいと責めるのは逆効果です。そう感じることは自然だと受けとめさせることで、やがてそういった感情は薄れていきます。
悲嘆の感情表現をあまりしない人は、立ち直っていると考えるのは早急です。
悲嘆を充分に表現できない人の方が、大きな悲嘆、大きな問題を抱えている場合があります。そのような人の場合は、悲嘆を表現できるようにサポートしましょう。
悲嘆が大きくて受けとめることが辛い場合、故人のことを喋りたくない、思い出したくないと思います。
ですから、無理矢理聞き出すことは避けましょう。しか し、いつまでも避けていると、「グリーフワーク」は進みません。少しづつでも、故人の死の悲しみを受けとめるようにさせましょう。
故人のことを思い出すことが辛い時期には、故人の思い出の品を処分したり、あるいは引越しをしたくなることは良くあります。ですが、故人の思い出は、後に大切なものとすることができますので、一時の感情で処分や引越しをしないように勧めましょう。
様々な感情が強すぎる時には、アルコールや精神安定剤なども助けになります。ですが、これらは悲嘆を受けとめ、それを表現することの妨げになることもあります。あまり依存しすぎると、正常に「グリーフワーク」を進むことができなくなります。
悲嘆を表現する方法としては、詩を書くとか、故人に対して手紙を書いてみるといったことも効果的です。また、「グリーフケア」を目的とした専門の会などに 参加することもできます。利害関係のない第三者の、専門家やグリーフワークの経験者に話を聞いてもらうことは、とても効果的です。場合によっては、こう いった方法も勧めてみましょう。
病気による死別などの場合、遺族の悲嘆は死別の前に始まります。この場合も、家族の悲しみなどの感情の表現を、正常なものとして受けとめる必要があります。そして、死別までにすべきことを冷静に考えて、悔いを残さないようにアドバイスする必要があります。